AIが塗装を変える、ティーチングレス時代へ1
佐々木社長 インタビュー掲載記事 コーティングジャーナル2025.3.5号掲載

タクボエンジニアリング 代表取締役 佐々木栄治氏
今年2月で創業50年を迎えたタクボエンジニアリング。1月で80歳となった佐々木栄治社長の視線の先は、常に塗装の未来に注がれている。今年は“ティーチングレス元年”を掲げ、AI活用による自動ティーチングの実装を目指す方針。その一方で「塗料だけで売れる時代は終わった」と、塗料と装置の協業展開の活性化を強く訴える。佐々木社長に塗料・塗装の目指すべき未来像について話を聞いた。
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——長きにわたり塗装技術を見てきた立場として、塗装機の変遷をどう見ていますか。「大きな流れとしては、国内外とも分業が進み、総合塗装機メーカーと呼ばれる存在が少なくなりました。その方が経営効率が高く、規模の拡大を図りやすいと考えたからでしょう。以前はロボットも塗装機メーカーが保有していましたからね。世界の総合塗装機メーカーが制していた時代と比べると随分変わりました」
——分業化による影響をどう見ていますか。
「新しいものを構想することが非常に難しくなりました。時折、『ロボット塗装の次に何が来るのか』という相談を頂くことがありますが、ロボットの次はあくまでもロボットです。内燃機関や素材の変化があっても4輪であり続ける自動車と同様で、単体の製品に向き合っているだけでは大きな革新はできません。その意味では、ものづくり企業としてそれぞれの要素技術を開発し、製品化してきた原点に戻る必要があると見ています」
——局面を変える手立てはありますか。
「私はAIの活用がこれからの塗装を大きく変えると見ています。3年前に人間と同等程度の知識と能力を持つAGI(汎用知能)が登場し、昨年末に米・OpenAIは、ChatGPTの新バージョンとなる『o3(オースリー)』を公開しました。『o3』は、段階的に推論を積み重ねることができるAIです。今までロボットの制御には人間の頭脳を使っていましたが、これからはAIの頭脳を使って制御が可能になるということです。そう考えるといよいよ自動ティーチングも現実味を増してきます。おそらく数年の内に新しい塗装方法が顕在化するでしょう」
——貴社は今年“ティーチングレス元年”を掲げました。
「誤解してほしくないのは、今からティーチングレスの開発に着手するのではなく、これまでの画像解析や流体解析などの技術蓄積を経て、実用化のステップに入ったということです。目指すのは、ワークを登録するだけで最適な塗り方やコストを算出し、塗装機に伝達するシステムの開発です」
「AI活用はいわばデジタル化です。吊り下げ式ロボットを開発した当初からこのデジタル化を推進し独自のティーチングプログラムを設計してきました。約40年前から。そして、今日、人間が考える作業を除いたところがAI活用の肝になります。詳細は折々の機会に紹介しますが、実装レベルに入った“元年”と位置づけています」
——なかなか現実味を感じにくいものでもありますね。
「デジタルは、ピンとこないですね。私自身もAI開発のスピードの速さに驚いています。『o3』に関しては、もう少し開発に時間がかかると思っていましたが、あっという間に登場しました。我々もコンピュータが自ら考え、推論まで弾き出す技術を想定して取り組まなければならない時代に入ったということです」
——塗装のAI活用は、ロボットへの適用から始まるのでしょうか。現状を考えると用途が限定される点が拭えません。
「その通りです。用途が限定されるかもしれません。今までの発想では。AIの活用も含め、これから塗料・塗装産業が革新できるか否かは、塗料開発にかかっているといっても過言ではありません。しかし、工業塗装の多くが、熱を使って硬化させる焼付塗料を多用していますからね。熱を使う発想から脱しない限り、業界の変革は難しいでしょう。ですから、それぞれが合理的にデジタル化し、より柔軟な導きをAIに委ねるということですかね」
——方策はありますか。
「当社は現在、塗料開発にも注力しているのですが、将来の可能性として無溶剤塗料に着目しています。いわゆるUV硬化型塗料です。塗料の脱危険物化や熱を使わない環境負荷低減の考え方に立つとUV塗料の優位性は高いものがあります」
——かつて用途拡大が期待されながら、一部の用途にとどまっている歴史があります。
「これについては、カーボンニュートラルをはじめ、世界が脱炭素化に舵を切ったことが大きいですね。これによりUV塗料に対する再評価の気運が高まっています。実際、顧客からもUV塗装や粉体UV塗装に対する相談を受けており、この2、3年の内に表面化すると思います。あとLED照射による無溶剤UVか水系UVなど塗料メーカーの技術に委ねられることになるでしょう」
——塗料メーカーもそうした感度を捉えているのでしょうか。
「まだまだ一部に限られると思います。これまでもUV塗料に関する議論は塗料メーカーとも重ねてきましたが、決まって返ってくるのが『ユーザー側に装置がないから普及しない』との反応です。装置がないところに塗料をつくっても売れないという思考が長く続いています」
AIが塗装を変える、ティーチングレス時代へ2 へつづく
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