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回転塗装の追求(流体シミュレーションによる)

著者:技術開発部 小島 光

「Rの技術による回転塗装」に流体シミュレーション技術を活用
塗装技術60周年記念号7月発行掲載

流体シミュレーション技術を活用して分かった事

流体シミュレーションによる回転塗装の追求
流体シミュレーションによる回転塗装の追求

「Rの技術による回転塗装」と一般的な「網塗り塗装」及び「スピンドル塗装」に流体シミュレーション技術を活用して分かった事について紹介する。

流体シミュレーションによる回転塗装の追求

 当社では少ない塗料で高い生産性と高品質を両立させる「Rの技術による回転塗装」を追求し、その高度な技術を活用した塗装ロボットシステムを数多く提供している。
 Rの技術とは:タクボエンジニアリング(株)が長年、回転塗装を追求し続けてきた技術の総称である。回して塗るだけではなく、塗料使用量を「極限まで追求できる」仕組みを各種備えている。
 現在、塗装のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けて、段階的に変革するティーチングアシストソフト「SWANIST」(スワニスト)の開発を進めている。この進化型のソフトウエアは、塗料や作業の無駄を徹底的に分析し排除していくために流体シミュレーションや人工知能(AI)を積極的に活用している。
 本稿では、当社が提唱している「Rの技術による回転塗装」と一般的な「網塗り塗装」および「スピンドル塗装」を流体シミュレーション技術にて、可視化や数値化してわかったことを紹介する。

1. 流体シミュレーション技術を塗装に活用すると何が見えるか

図1 流体シミュレーションによる塗装の可視化
図1 流体シミュレーションによる塗装の可視化

 塗装のシミュレーションは、スプレーガンから噴出される粒子一つ一つを運動方程式に基づいて計算し追跡していることから、噴霧粒子が気流の影響をどのように受けて飛んでいくか、観察・分析することができる。また噴出される粒子の数とワークに塗着した粒子の数をカウントすることができるため、捨てている塗料の量を簡単に算出することができる。 (塗着効率や塗料使用量の算出)

2. 塗装をシミュレーションして分かった事

 シミュレーションの対象は当社が提唱している「Rの技術による回転塗装方式」と一般的な「網塗り塗装方式」及び「スピンドル塗装方式」とした。解析条件としては可能な限り、現実的な条件を設定している。
 3種類の塗装方式を比較シミュレーションした結果は以下の通り。

図2 「網塗り塗装」と「Rの技術による回転塗装」の比較解析
図2 「網塗り塗装」と「Rの技術による回転塗装」の比較解析

①「網塗り塗装」と「Rの技術による回転塗装」の塗着効率の比較結果※同一ワークを網、またはリング上に配置して比較した。

  • 網塗り塗装の塗着効率       :【19.3%】
  • Rの技術による回転塗装の塗着効率 :【45.3%】

②「スピンドル塗装」と「Rの技術による回転塗装」の塗着効率の比較結果

  • スピンドル塗装の塗着効率     :【7%】
  • Rの技術による回転塗装の塗着効率 :【42.3%】
  • ※Rの技術による回転塗装は図3右のようにコンベア追従するSWAN-Cを想定。
    ※新型ロボット「SWAN-C」の詳細については割愛する。(2020年11月増刊号参照)
図3 「スピンドル塗装」と「Rの技術による回転塗装」の比較解析
図3 「スピンドル塗装」と「Rの技術による回転塗装」の比較解析

①、②の解析結果より、「Rの技術による回転塗装」の塗着効率は「網塗り塗装」の約2倍、「スピンドル塗装」の約6倍であることが分かり、「Rの技術による回転塗装」は塗着効率が良い方式であることが分かった。

3. Rの技術による回転塗装の塗着効率が良い理由(網塗り塗装との比較)

 流体解析では塗着効率や塗料使用量の算出だけではなく、時間を刻んで現象を分割し、細かく分析することができる。スピンドル塗装についてはワークが通過する部分塗りであり、比較対象とならないため省略することとし、ここでは網塗り塗装との比較とする。

<理由その1>

図4 網塗り塗装のオーバースプレー
図4 網塗り塗装のオーバースプレー

 網塗り塗装では原理的に左右の折り返し点で塗料を必ず捨てている。また図4にあるようにエッジ部分を塗るためだけに大部分の塗料を無駄に使用している。

<理由その2>

図5 スプレーガンが動くか、ワークが動くか
図5 スプレーガンが動くか、ワークが動くか

 網塗り塗装ではスプレーガンが高速に移動するため、塗着しにくい状態になっている。このことを証明するには同じ条件で比較する必要があるため、スプレーガンが移動する場合とワークが移動する場合を解析した。ワークが移動する回転塗装の原理をイメージしたものが図5の右側になり、スプレーガンが移動する網塗り塗装を再現したものが図5の左側になる。

 図5にあるように網塗り塗装ではスプレーガンが高速に移動するため、ミストが拡散していることが分かる。ミストが拡散するとワークに塗着する確率が減るため、塗着しにくい状態となる。 一方、ワークが移動する場合はワークが動いているにもかかわらず、ミストが安定していることが分かる。ミストが安定するとワークに塗着する確率が高まるため、塗着効率が上がることになる。

図6 拡散するミストと安定するミストの違い
図6 拡散するミストと安定するミストの違い

 図6はミストの広がりを分かりやすくした図になる。左側のスプレーガンが高速に移動する場合(網塗り塗装)は、ミストが拡散して、粒子の速度が減速していることが分かる。スプレーガンが移動すると止まっている空気にミストがぶつかって拡散、減速してしまう。スプレーガンの移動速度がさらに上がれば、その傾向は顕著になり、より塗着しにくくなる。
 一方、右側のワークが高速に移動する場合(Rの技術による回転塗装)ではスプレーガンがゆっくり移動するため、ミストが安定し、粒子速度も維持されているため、塗着効率が上がることになる。

<理由その3>

 図7 Rの技術の回転数と周速の関係
図7 Rの技術の回転数と周速の関係

 Rの技術による回転塗装ではワーク直径ごとに最適な周速を求めている。(図7の右グラフ)これによってワーク間を通過するわずかなミストも拾って、ワークに付着させている。図7の左グラフでは縦軸が膜厚、横軸が周速になっているが、最適な周速によって塗着効率が上がることが分かる。ワークごとの適正な回転数はこの周速から割り出している。

  図8 ワークが静止した場合と高速で移動している場合
図8 ワークが静止した場合と高速で移動している場合

 図8はワークが静止した場合とワークが高速で移動している場合をイラスト化したものである。ワークが静止した場合(網塗り塗装)はワーク間の隙間をミストが通過し、一定割合の塗料が無駄になるが、ワークが高速で移動している場合(Rの技術による回転塗装)は隙間を通過するはずの粒子も拾ってワークに付着させることができる。そのため、ワーク間のオーバースプレーをも減らすことができる。

「Rの技術による回転塗装」の塗着効率が良い理由を以下にまとめる。

  • 理由その1が、左右の折り返し点がないため、オーバースプレーが少ない。
  • 理由その2が、ミストの乱れがなく、安定している。
  • 理由その3が、ワーク間を通過するミストが減る。

4. Rの技術による回転塗装の生産性が高い理由(網塗り塗装/スピンドル塗装との比較)

 網塗り塗装で生産数を上げる場合は原理的に「スプレーガンの移動速度を上げて、吐出量を上げる」という方法しかない。これによって塗装条件が変わり、品質との両立が難しくなる。また折り返し点によるオーバースプレーが多いため、生産数を上げれば上げるほど、多くの塗料を捨てることになる。
 次にスピンドル塗装で生産数を上げる場合についてはこちらも原理的に「コンベア速度を上げる」しか方法がない。またコンベア速度が速くなるつれ、塗着効率が下がるため、「固定スプレーガンの数を増やし、吐出量も上げていく」必要がでてくる。
 スピンドル塗装のシミュレーションでは、コンベア速度に比例して塗着効率が下がることが確認できており、またコンベア速度に比例してスプレーガンの数と吐出量をそれぞれ上げる必要があることも確認できている。(表1)

表1 スピンドル塗装解析によるコンベア速度と塗着効率/膜厚係数の関係
表1 スピンドル塗装解析によるコンベア速度と塗着効率/膜厚係数の関係

※表1の上段が「塗着効率」、下段が「膜厚係数」。
※「膜厚係数」は、表1左上のコンベア速度4m/minの膜厚を100とした相対膜厚。

一方、Rの技術による回転塗装では、複数リングを同時に塗り上げることで生産数を上げることが可能となっている。(図9)

  • 複数リングをバラツキなく塗り上げる条件としては、バラツキのないスプレーガンを搭載する。
  • 定量吐出できるシリンジポンプを搭載することである。これにより、塗装条件を変えることなく、品質を維持したまま生産数を上げることが可能になる。
図9 複数リングを同時に塗り上げるRの技術による回転塗装
図9 複数リングを同時に塗り上げるRの技術による回転塗装

5. 最後に

 塗装を取り巻く環境は日々刻々と変化しており、近年では特に環境への対応が必須になっている。これからの時代は塗料も設備も時代に合った変化を求められる。
 ロボットが被塗物を追いかける従来の塗装方式は、小物ワークであっても大物ワークであっても原理的に効率が悪く、塗料の無駄が多いことが解析より明らかになった。一方、スプレーガンがゆっくり動き、被塗物が回転する「Rの技術による回転塗装」は原理的に塗料の無駄が少ないことが証明された。
 今後も最新のテクノロジーを駆使して、時代の変化や環境の変化に対応した塗装システムを開発し、社会課題の解決に貢献できればと考えている。

塗装技術60周年記念号7月発行掲載

技術開発部  小島 光

 

公開日:2021年7月30日

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