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In ミラーコーティングシステム(月刊塗装技術 2022年12月号掲載)

著者:技術開発部シニアマネージャー 小島 光

スプレーによるメッキ塗装の量産化の実現
インジウム ミラー コーティング システム

新開発 インジウムミラーコーティングシステムとは

タイトル:新開発「インジウムミラーコーティングシステム」
タイトル:新開発「インジウムミラーコーティングシステム」

メッキ塗装の量産化システム「インジウムミラーコーティングシステム」とインジウム塗料「ECO MIRROR 49(エコミラー49)」についてご紹介します。

新開発「インジウムミラーコーティングシステム」

 鏡面意匠を付与する手段としては、めっき、蒸着が知られているがめっきは廃水処理等の点で環境負荷が高く、蒸着においては設備が大掛かりでコストがかかり、バッチ式のため連続ライン生産ができない。そこで、これらの問題を解決するために、これまでスプレーによるメッキ塗装の開発が各種行われてきたが塗装技術やコストの問題から工業用に展開することが難しかった。この度、武蔵塗料ホールディングス㈱とタクボエンジニアリング㈱の共同開発によってスプレーによるメッキ塗装の量産化の実現が可能となった。

 本稿では、メッキ塗装の量産化システム「インジウムミラーコーティングシステム」とインジウム塗料「ECO MIRROR 49(エコミラー49)」について紹介する。

1.今なぜ、インジウムなのか

 鏡面コーティングシステムの歴史は,第1表にあるように第1 世代の銀鏡塗装( 硝酸銀とアンモニウムで反応)から始まり,第2 世代の銀コロイド・銀錯体と続くが,耐候性・耐食性・塗料単価の問題からいずれも工業用向けに展開することは難しかった。そこで,耐候性と耐食性に優れたインジウム塗料が第3 世代として誕生することになるが,インジウムは銀同様に高価なため,工業用向けに普及させるためには塗料消費量をいかに少なくするかが最大の課題となった。

この課題を解決するためには,少ない塗料で高い生産性と高品質を両立させる「R の技術による回転塗装」が必須となり,武蔵塗料ホールディングスと当社が業務提携を結ぶことになった。「メッキや蒸着の代替」になるためには,塗料コストと塗装コストが重要になる。

第1表 鏡面コーティングシステムの歴史
第1表 鏡面コーティングシステムの歴史

2. インジウム塗料の特長と用途

 インジウム塗料のインジウムは、原子番号「49」、元素記号「In」 のレアメタル。単体は柔らかく銀青白色で、常温では安定な金属である。日本で産出されたが現在はほとんど中国産でほぼ中国からの輸入品である。インジウムという名前の由来は輝線スペクトルの色がインジゴ(indigo) 青色であるため、インジウムと名付けられたと言われている。融点が低く扱いやすい金属で、導電性・透過性があり、薄膜時はミリ波などを透過する珍しい特徴を持つ金属である。

 近年、携帯電話・電子機器・情報端末の筐体、自動車部品(フロントグリル、バンパ等)等には、鏡面意匠とともに電波透過性が求められている。携帯電話・電子機器・情報端末は、筐体内部に通信アンテナ等を有しており、電波透過性を有することが必要である。また、自動車のフロントグリルやバンパ近傍には、距離測定等の各種レーダー装置のアンテナが設置されており、電波透過性を有することが必要となっている。アンテナ周辺の電波透過性が電波受信性能に大きな影響を与えている。

以下にインジウム塗料「ECO MIRROR 49(エコミラー49)」の特長と用途を示す。

  • スプレー塗装でミラー調を実現。
  • 低温領域(80℃)で幅広い基材適正、素材を選ばない。
  • トップコートを変えることでバリエーションが豊富。(写真―1参照)
  • 「ツヤあり」「ツヤ消し」「色付き」等の多様な鏡面が可能。
  • 耐候性と耐食性に優れるため、これまで導入が困難だった自動車外装部品にも対応可能。
  • 電波透過性に優れるため、自動車のセキュリティ・セーフティ用途にも対応可能。(第1図参照)
  • 既存の「めっき」加工処理が必要な全ての製品/品目が対象。(自動車用内装部品及び外装部品、エンブレム類、ドア/窓のノブ/鍵、眼鏡、IT機器等)

豊富な意匠塗膜

写真―1 豊富な意匠塗膜
写真―1 豊富な意匠塗膜

ミリ波透過イメージ

第1図 ミリ波透過イメージ
第1図 ミリ波透過イメージ

 自動車に要求される電波特性としては、車の運転支援システムに使用されている障害物検知電波がある。車の前方は高度な検知性能が要求されるため、76~77GHz帯の電波が放出され、車後方は24GHz帯が放出されている。この2つの帯域の各種塗膜の電波透過特性を測定した結果を第2表に示す。

 インジウム塗料「ECO MIRROR 49(エコミラー49)」の電波特性は「塗装無しの基材(標準)」とほぼ同等の結果になっており、電波透過性に非常に優れていることが分かる。

ECO MIRROR 49 塗膜の電波特性

第2表 ECO MIRROR 49 塗膜の電波特性
第2表 ECO MIRROR 49 塗膜の電波特性

3. なぜ、Rの技術による回転塗装なのか

 ミラー層の鏡面性を安定させるためには下地を均一に隠蔽し、できるだけ薄い膜を形成することが鏡面の効果を最大に発揮することが分かっている。(インジウム塗料は隠ぺいできればよいので、ミラー層の膜厚は400nm(ナノメートル)レベルである。)手吹き塗装や網塗り塗装では薄く塗ろうとするとムラになるため、薄膜を均一に形成できる塗装技術が必要不可欠である。また、インジウムの塗料は高価であるため、塗料をいかに少なくして塗れる塗装技術も重要になってくる。

したがって、メッキ調塗装を工業用向けに展開するには、最小限の塗料で超薄膜形成の量産化が可能なタクボエンジニアリング㈱の「Rの技術による回転塗装」(第2図参照)が最適であり、必須となる。この塗装技術によって、ナノレベルの均一な薄膜形成の実現が可能となる。他の塗装方式ではナノレベルの均一な薄膜形成と塗料の削減は原理的に極めて困難であると考えている。

  • 定量吐出のシリンジポンプを搭載していること。(写真―2参照)
  • シリンジポンプと連携し、超薄膜を制御できる仕組みがあること。
  • 複数リングを同時にバラツキなく塗り上げるスプレーガンを搭載していること。
  • 部位毎に吐出量を変えられる制御ソフトを装備していること。
  • 塗装条件を数値管理し、塗料使用量を追求できるソフトウエアが付加されていること。

Rの技術による回転塗装

第2図 Rの技術による回転塗装
第2図 Rの技術による回転塗装

定量吐出のシリンジポンプ

写真―2 定量吐出のシリンジポンプ
写真―2 定量吐出のシリンジポンプ

インジウムミラーコーティングシステムの基本プロセスとしては、3コート3ベイクとなり、
「アンダーコート → 乾燥 → インジウムコート → 乾燥 → トップコート → 乾燥」
からなる。

インジウムミラーコーティングシステムの仕様を第3表に示す。

インジウムミラーコーティングシステム仕様

第3表 インジウムミラーコーティングシステム仕様
第3表 インジウムミラーコーティングシステム仕様

  • ※ EC-NTM82- ラインのアンダーコートは汎用プラスチック素材向け(ABS,PC/ABS,PC,PMMA)
  • ※軽金属(アルミニウム, ステンレスなど) 、スーパーエンプラ(PPSU, PPS, PEIなど)、 エンプラ(各種ナイロン、PBTなど)には、EC-NTM86-ラインのアンダーコートを使用のこと。

4.ティーチングアシストソフト「SWANIST」(スワニスト)

 インジウムミラーコーティングシステムは「Rの技術による回転塗装」の塗装技術が最適で必須になるわけだが、そこには塗料消費量の管理と追求ができ、ティーチングが簡単にできるティーチングアシストソフト「SWANIST」(スワニスト)も重要になる。

「SWANIST」は塗装条件を数値化し、簡単に設定、管理することができるため、超薄膜の均一性と量産化を可能とする。(第3図参照)また、塗料消費量を極限まで下げ、塗装コストを最小限にするためには、ワークの数や配置も重要となる。「SWANIST」は3Dバーチャル空間でワークの角度や位置、数を直観的に操作しながら、ワークの配置を検討したり、確認することが可能になっている。また、ワークの配置情報の共有や治具製作に向けた配置データを転送することができる。(第4図参照)

ティーチングアシストソフト「SWANIST」

第3図 ティーチングアシストソフト「SWANIST」
第3図 ティーチングアシストソフト「SWANIST」

ワーク配置設定画面

第4図 ワーク配置設定画面
第4図 ワーク配置設定画面

5.インジウムミラーコーティングシステム専用装置のレイアウト

 インジウムミラーコーティングシステム向けの塗装ロボットは第5図にある大量生産型のLINE _DANCER(ラインダンサー)と汎用型のSWAN_PRO(スワンプロ)を採用している。
また、インジウムミラーコーティングシステムの基本スタイルとしては、生産量に合わせて4つのタイプを標準化している。各塗装システムの生産量を第4表に示す。

インジウムミラーコーティング向け専用システムと生産量

第4表 インジウムミラーコーティング向け専用システムと生産量
第4表 インジウムミラーコーティング向け専用システムと生産量

標準化した4つの塗装システムのレイアウトは、第6図~第9図になるが、要求に応じて様々なシステムを提案することが可能。

  • 3R3Cラインダンサー4ガン8トップ自動式塗装システム(大量生産向け)
    第6図 3R3Cラインダンサー4ガン8トップ自動式塗装システム
    第6図 3R3Cラインダンサー4ガン8トップ自動式塗装システム
  • 3R3Cスワンプロ2ガン4トップ自動式塗装システム(準大量生産向け)
    第7図 3R3Cスワンプロ2ガン4トップ自動式塗装システム
    第7図 3R3Cスワンプロ2ガン4トップ自動式塗装システム
  • 1R3Cラインダンサー3ガンターレット4トップ自動式塗装システム
    第8図 1R3Cラインダンサー3ガンターレット4トップ自動式塗装システム
    第8図 1R3Cラインダンサー3ガンターレット4トップ自動式塗装システム
  • 1R3Cスワンプロ2ガンターレット4トップバッチ式塗装システム(少量多品種向け)
    第9図  1R3Cスワンプロ2ガンターレット4トップバッチ式塗装システム
    第9図  1R3Cスワンプロ2ガンターレット4トップバッチ式塗装システム

 塗装を取り巻く環境は日々刻々と変化しており、近年では環境への対応が必須になっている。また、自動車電子部品や家電製品の高度化への対応など、市場の要求はますます高まっている。インジウム塗料の持つ、豊富な鏡面意匠と電波透過性機能をRの技術の回転塗装によって工業用向けに満を持して対応することが可能となった。

 先進的な技術開発を実現させるためには、パートナーシップも必要になる。今後も最新のテクノロジーとソフトウエアにより、時代の変化や環境の変化に対応した塗料と塗装システムを綿密に連携、協働し、社会課題の解決に貢献できればと考えている。

月刊塗装技術 2022年12月号掲載 制作著作 理工出版社・タクボエンジニアリング(株)

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